Introduction

暗闇の中から響き始めるパーカッションの音

それは人の鼓動のようだ

その響きに誘われるように“音遊び” が始まる

この映画は「音遊びの会」がこの時代に存在する

存在しなければならない理由を教えてくれる

 知的な障害のある人と、即興を得意とする音楽家の幸福な出会いは、1 人の大学院生の思いつきと熱意によって始まった。半年限りの実験の予定だったこの「音遊びの会」プロジェクトは、参加者の強い希望で継続され、“大家族バンド” “アーティスト集団” と呼ばれる存在になり、いつの間にか17年の月日が流れている。活動初期からのメンバーはもう皆成人した。音楽として成り立つのがやっとだった初期の表現からは想像もできない数々の刺激的なユニットも生まれた。全国各地から公演に呼ばれ、英国ツアーも敢行した。それでも彼らの音楽は1ミリもブレることなく、目を耳を釘付けにする。

 野田亮が「音遊びの会」のワークショップや公演を撮りためていく中で最初期に行ったことは、障害のあるメンバーの保護者たちへのインタビューだった。そのインタビューが本編に使われている時間はわずか数分。それぞれに時間をかけた丁寧なプロセスを経ている。彼らと過ごした時間の密度が映画に現れている。共生社会、ダイバーシティ、SDG's、未来への希望、幾つものイマドキなワードで語られるかもしれないこの映画の根底に流れるのは、そう言ったワードを超えた先にある明るい社会だ。